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仙台高等裁判所秋田支部 昭和36年(ネ)66号 判決

控訴人 佐藤ノリ

被控訴人 佐藤頌

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人等は、「原判決中控訴人敗訴の部分を取り消す。被控訴人は控訴人に対し金七十七万八千百六十五円およびこれに対する昭和三五年一〇月一一日以降完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。被控訴人は控訴人に対し金百六十万円およびこれに対する昭和三四年一一月一日以降完済にいたるまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文第一、二項と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張は、以下に附加するほか、原判決の事実摘示と同一であるから、これを引用する。

一  控訴人の主張

(一)  原判決は、控訴人の反訴請求中英理子に関する医療費の支払を求める部分を却下した。しかしながら、右医療費の実質は扶養料であり、資力のある被控訴人が負担すべきものである。そして、子の扶養料の支払を離婚の訴と併合して求めうることは人事訴訟手続法第一五条第二項の文理上および実際の必要上これを肯定すべきであるから、右請求を却下した原判決は不当である。

(二)  原判決は、控訴人と被控訴人とは相互に相手方に対し離婚に伴う慰藉料を支払うべき責に任じないものと考えるのが相当である、と判示して控訴人の慰藉料請求を棄却した。しかし、控訴人主張のように、被控訴人は泥くさい田舎者が鼻につき、些細なことを針小棒大に主張し、糟糠の妻である控訴人の追出にかかり、そのことが本件の原因となつたのであつて、原判決には事実の誤認がある。しかして、慰藉料は必ずしも身体、自由、名誉を害された場合にのみ請求しうるものと限局して解すべきではない(最高裁昭和三一年二月二一日判決)から、本件慰藉料請求を排斥した原判決は不当である。

(三)  控訴人の財産分与請求について原判決の認めた財産分与額は少額に失する。財産分与の性格については、夫婦財産の清算であるとする点においては学説はほぼ一致し、なお扶養的性格を有するとする点においても多くの異論はない。被控訴人が現在月額二万数千円の給与を得られる地位を獲得し、被控訴人の父公知の所有ではあるが、被控訴人が将来相続することを予想される、水田二町一反二畝二八歩、畑二反四畝九歩、宅地一、五七二坪七合五勺、雑種地一町二反六畝一四歩、山林約三町歩(近く公知名義となる。)、建坪六八坪五合の居宅、一〇坪余の倉庫、ことに、田、畑を維持し得たのは控訴人の絶大な協力の結果である。被控訴人の弟二人がそれぞれ大学を卒業して医師となり、これに要した学費は莫大であつたにかかわらず、そのために被控訴人方の財産の減少をみなかつたのは、控訴人の協力の絶大であつたことの一証左である。被控訴人は表面上現在毎月二万数千円の俸給収入があるのみであるが、上流農家の長男として潜在的には右のような莫大な資産を有する者である。そして、被控訴人方の生活程度はつぎのとおりである。被控訴人は父母と同居し生計を一にしているところ、家族は被控訴人を含めて六名であり、その収入は、(1) 被控訴人の給与、手当年額三十四万六千七百八十八円、(2) 父公知の恩給年額約十二万円、(3) 妹有子の遺族扶助料年額九千円、(4) 被控訴人の賞与、(5) 長谷川トミ小作の水田九反歩の小作米九俵、肥料のみを供給して長谷川トミに耕作させている水田四反歩の収穫米三二俵、千田春吉ほか約一〇名に賃貸している現況宅地(地目は畑、雑種地等である。)一町歩の地代米一〇俵、以上合計五一俵のうち被控訴人方で消費するのは約二一俵(一人一日四合の割合)で、残りの約三〇俵は少なくとも代金十二万円で売却しているので、現金収入は合計六十五万円ないし七十万円となる。生計費は、米代の支出なく、現況畑約七反歩を長谷川トミに小作または耕作させて野菜を無償提供させているので、野菜購入の必要なく、宅地の裏手を果樹園にしており、果物購入の必要もなく、薪は前記山林から伐採できるので、燃料費の支出はほとんどなく、住の心配もないので、支出はきわめて少ない。したがつて、右六十五万円ないし七十万円の現金収入中年間相当額を貯蓄しているものと思われる。現に、被控訴人は、控訴人との同棲中、相当の株券を購入した事実がある。さらに、前記山林の立木を売却した臨時の収入(昭和三四年にこの山林の立木を伐採して家屋を建てた。)もあり、生活が安定しているので、富農と目されている。被控訴人方の家族一人当りの生活程度を金銭で表示するには、自給自足分を金銭に換算してこれを前記現金収入に加算して算出しなければならない。すなわち、米一人一日四合、一ケ月一斗二升、その代金千二百円、野菜、果物等一人一ケ月六百円、住居費(借家費および燃料費)は一人一ケ月最低千二百円として計算できるから、自給自足分は家族一人一ケ月三千円、六人で一万八千円、一ケ年で二十一万六千円となる。これを前記の現金収入に加えると、八十六万六千円ないし九十一万六千円となり、家族一人の生活程度は年額十四万一千円ないし十五万二千円余となる。しかるに、控訴人の給与収入は、毎月僅かに六千円であるから、これでは次女英理子と二人の食費をようやく賄うに足るのみで、食う以外の余裕は全然ない。そして、控訴人母子の生活程度は一人一ケ年三万六千円で、被控訴人方の約四分の一にすぎない。被控訴人の収入は今後増大すべく、控訴人の収入が増加することはほとんど考えられないから、生活程度の差は益々増加する。控訴人の実家には多大の資産があるが、控訴人の弟が相続しており、出戻りの控訴人が現在、将来とも依存できないことは多く言う必要がない。したがつて、原判決が認容した財産分与額およびその支払方法をもつては親子二人の生活を維持することはできない。原判決は控訴人の実家がある程度の資産を有することを念頭においたものではないかと考えられるが、離婚によつて一方が生活に困窮する場合には、婚姻中の相互扶助を延長し、親族扶養や生活保護に優先して他の一方に扶養の義務を負わせることは、衡平の観念に照らし、当然である。それ故、原判決の認容額は、当事者双方の一〇年以上の協力関係、今後の生活状態の比較その他一切の事情を勘案すると、少額に失すること明白である。

二  被控訴人の主張

(一)  控訴人の一の(一)の主張は争う。医療費の支払請求を離婚の訴に併合し、または反訴として請求し得ないことは、人事訴訟手続法第七条第二項、第九条の規定に照らし明白である。

(二)  控訴人の一の(二)の主張事実は否認する。控訴人は頑迷であり、妻の責務を尽さないばかりか、故意に被控訴人の名誉を傷つけるため、被控訴人の不貞等無根の事実を言いふらし、また無根の事実を警察に訴え、そのことが被控訴人に与えた痛苦は筆舌に尽くしがたいところであり、むしろ、本件離婚の原因をなしたのは控訴人の行動そのものにほかならないのであり、慰藉料を請求できる筋合ではない。

(三)  控訴人の一の(三)の主張事実中、被控訴人の父公知が控訴人主張のような不動産(ただし、山林を除く。)を所有していること、被控訴人が控訴人主張のような給与、手当、賞与を得ていること、被控訴人の父公知が控訴人主張のような恩給を得ていることは認めるが、その余の事実は否認する。被控訴人の現在の地位が控訴人の力によるという主張は全く事実を誣うるものであつて、被控訴人は、控訴人に日夕悩まされるという精神上の負担のため、また控訴人が無根の事実を捏造し流布したため、勤務上いかにマイナスになつたかは計り知れないものがあり、被控訴人には母および兄弟姉妹があるから、父公知の資産を被控訴人だけで相続することもあり得ない。父公知は田三反一五歩を自作し、一八俵程度の収穫を挙げているが、そのうち七俵位は肥料、農薬、労賃等の経費にあてており、さらに、数名の者に賃貸している若干の宅地があるが、その地代は不払のみ多く、収入は微々たるものである。父公知には植林している土地があるが、伐採に適する樹木なく、年々薪炭を購入している。被控訴人には貯蓄はなく、弘南バス株式会社の額面五万円の株券を有するのみであるが、全然無配当であり、その価格は額面をはるかに下回る。そして、被控訴人の妹は五所川原高等学校三年生で大学進学の希望を有し、長男邦明は中学三年生、長女由紀子は中学一年生であり、これらの学費は現在および将来とも被控訴人が負担しなければならないばかりか、父公知は昭和三六年四月急性虫垂炎および腹膜炙を併発し、以来健康が勝れず)同人の恩給は全部その医療費にあてられているが、なお足りない位である。他方、控訴人の父九郎右衛門は相当の資産家であり、同人は昭和三五年死亡したので、控訴人はこれを相続しており、また控訴人の月収についての主張は過少と思われる。

と述べたほかは、原判決事実摘示と同一であるから、これを引用する。〈証拠省略〉

理由

一  控訴人は、原審において、被控訴人の離婚請求(本訴請求)の反訴として離婚請求と医療費支払請求とを併合して訴求し、その医療費支払請求の原因は、二女英理子が、その移動盲腸に腸が癒着したのを手術するため、昭和三五年二月二六日から同年三月末日まで木造中央病院へ入院し、これに要した費用金三万八千百六十五円を控訴人において支払つたが、資力のある被控訴人において負担すべきものであるから、同額の支払を被控訴人に求める、というのである。控訴人は、この医療費支払請求を反訴として提起したのは適法であると主張する。しかし、右医療費支払請求は、控訴人において支出した医療費の償還請求を不当利得または事務管理を理由として求めるものと認むべく、その償還請求を求める権利の存否は本来通常の訴訟手続により判決をもつて判断すべきことがらであつて、その存否の判断は訴訟事項に属し、家事審判事項に属するものではなく、家事審判法第九条乙類第八号の「扶養に関する処分」に該当しないことももちろんである。そして、人事訴訟手続法第一五条第一項は家事審判事項に属する子の監護、財産分与に関する処分請求を便宜上婚姻取消訴訟または離婚訴訟の附帯請求として併合審理することを許容した規定にすぎないから、不当利得または事務管理にもとづく請求たる右医療費支払請求に対する判断は同条同項の「監護ヲ為スヘキ者其他子ノ監護ニ付キ必要ナル事項ヲ定メ」に該当せず、したがつて同条第二項の適用もないので、同請求を離婚の訴の反訴として提起することは同法第七条第二項の規定により許されないものと解すべきである。したがつて、控訴人が本件医療費支払請求を被控訴人の離婚請求の反訴として提起したのは不適法であつて、当該反訴は却下を免れない。

二  つぎに、控訴人は、被控訴人は泥くさい田舎者が鼻につき、些細なことを針小棒大に主張し、控訴人の追出にかかり、控訴人をして離婚のやむなきにいたらせたと主張する。しかし、本件婚姻破綻の経過および原因は、原判決一四枚目裏一一行中「姉純子」の下に「弟真」を加え、同葉裏一一、一二行中「(弟二人は県外にあつて中学または大学に在学中)」を「(弟真は昭和二三年館岡中学校の教師として奉職したが、翌年東京歯科大学に入学し、弟興は昭和二一年青森医学専問学校に入学し、右弟両名はそれぞれ学業を終え、医師となつた。)」に改め、同一五枚目表四、五行中「ようになつた。」を「ようになり、控訴人は主として家事に従事するようになつた。」に改め、同一六枚目表五行中「共にしていない。」を「共にせず、控訴人は被控訴人の姉純子もしくは被控訴人から依頼を受けた同人の母和子から被控訴人との和合を観められたが、応じなかつた。」に改めるほか、原判決一四枚目表九行から同一六枚目裏七行までおよび同一七枚目表一〇、一一行中の括弧内の原判決理由記載のとおりであつて(この点に関する原判決理由記載を引用する。)控訴人主張のような事実を認めるに足る証拠はない。もつとも、本件婚姻の破綻については被控訴人にもその原因がなかつたとはいえないけれども、これをもつて被控訴人の有責違法な行為により控訴人をして離婚のやむなきにいたらせたものとはいえないから、控訴人の慰藉料請求は失当として排斥すべきである。

三  最後に、控訴人の財産分与請求の当否について判断する。当事者双方の資産・収入は、公文書であることにより成立を認めうる乙第四号証の一、同第七号証の三、四、弁論の全趣旨により成立を認めうる乙第四号証の二、同第九号証の一、二、甲第九号証の一ないし四、同第一一号証に、原審証人竹内キセの証言、当審における当事者双方本人の各尋問の結果を総合すると、被控訴人は木造町立柴田中学校に勤務する教諭であつて、その月額給与は昭和三七年九月当時手取額(本俸、手当の合算額から税金、共済組合借入金返済分等を控除したもの)約二万七千円で、このほかに支払を受ける賞与は昭和三五年度は総額十一万八千二十三円(税金等未控除)であり、資産としては控訴人との婚姻中取得した弘南バス株式会社の株式千株(一株の額面金五〇円。利益の配当なし。)があるだけで、他に資産とみるべきものはないこと、控訴人は保育所に調理士として勤務し、その月額給与は昭和三七年七月当時七千七百円(社会保険料等未控除)であり、控訴人の父竹内九郎右衛門は田三町三反一畝二一歩(内約二町歩は自作田、他は小作田)、畑三畝一〇歩、宅地二五二坪五合九勺、居宅六四坪二合五勺を所有し、保証債務約百八十四万円(主債務者は控訴人の姉婿で、同人は寺の住職であり、かつ、控訴人勤務の保育所の経営者である。)を負担していたところ、昭和三六年死亡したので、控訴人はその母竹内キセ、弟三人および姉妹四人と共同して父の遺産を相続したが、遺産分割の協議は調つていないことを認めることができ、この認定を左右するに足りる証拠はない。控訴人は父の遺産に依存できないと主張し、当審における控訴人本人尋問の結果中には遺産を相続する意思はない旨の供述があるが、控訴人が相続の放棄をなしもしくは相続した遺産を他に譲渡したことはこれを認めるに足りる証拠はないから、控訴人はその法定相続分にしたがい父の遺産を取得しているものと認めるほかはない。また、控訴人は被控訴人が父公知の財産を将来単独で相続することが予想され、潜在的には莫大な資産を有すると主張する。被控訴人が父公知の推定相続人の一人たる地位にあることは先に引用した事実から明らかではあるが、そのような地位にあることはこれを被控訴人の資産に準じて考慮するに値するものではない。もつとも、父公知の資産、収入は、後記認定の事実から、その反射的効果として同人と生計を一にする被控訴人の資力を強化しているものと認められるので、そのような面において、扶養としての財産分与につきしんしやくされることはいうまでもない。そして、被控訴人の婚姻生活中における協力の程度は、先に引用した事実のとおりであつて、婚姻後別居するまでの期間は一〇年余で、その間、控訴人は被控訴人の父母と同居し、農業労働、家事労働または保育所勤務に従事し、他方被控訴人は教職にあつたものであつて、控訴人はこのような協力を通して被控訴人の現在の地位、前記株式の取得およびその父公知の後記資産の維持に寄与したものといえるが、これを越えた意味において控訴人の絶大な協力があつたことはこれを認めるに足りる証拠はない。控訴人は、被控訴人の弟興、同真が学業を終え医師となるには莫大な学費を要したにかかわらず、父公知の資産の減少をみなかつたのは控訴人の協力の絶大であつたことの一証左であると主張するが、控訴人がこれについて右協力以外になんらかの協力をなしたことはこれを認めるに足りる証拠はないから、控訴人の絶大な協力の証左となすに足りない。さらに、現在における当事者双方の生活状態をみると、前掲各証拠に、公文書であることにより成立を認めうる乙第三号証の一、二、同第七号証の一、弁論の全趣旨により成立を認めうる乙第七号証の二、五、甲第一三号証の一ないし八、弁論の全趣旨により被控訴人の父公知の居宅の写真であると認めうる乙第八号証の一、同じく公知の土蔵の写真であると認めうる乙第八号証の二、当審における被控訴人本人尋問の結果により成立を認めうる甲第一四号証の一、原審および当審証人長谷川トミ、当審証人新岡チエの各証言(以上の各証拠中以下の認定とていしよくする部分は措信しない。)を総合すると、被控訴人方の家族は、同人と父公知、母和子、妹有子(昭和一九年六月一五日生)、長男邦明(昭和二三年二月一〇日生)、長女由紀子(昭和二五年二月二七日生)および被控訴人と同棲関係にある吉川アキエとの合計七名であつて生計を一にしており、父公知は田二町一反二畝二八歩、畑二反四畝九歩、宅地一、五七二坪七合九勺、雑種地一町二反六畝一四歩、居宅六八坪五合、倉庫二棟合計一〇坪五合を所有し、一町当り千五百円で払下を受けた山林約五町二反も間もなく公知所有名義に保存登記されることになつているので、被控訴人方の主たる収入としては、前記被控訴人の給与収入(賞与を含む。)のほか、父公知の恩給年額約十二万七千円、父公知の自作田三反一五歩からの収穫米約二一俵、小作田一町八反七歩から父公知が小作料として支払を受ける米約一三俵、宅地、雑種地(現況宅地)約一町を約一〇名の者に賃貸していることにより父公知が支払を受ける地代(一反当りの地代はおおむね供出米一俵の代金相当額であるが、その支払状態は必ずしも良くない。)があり、野菜はほとんど自給しており、妹有子(高校生)、長男邦明(中学生)、長女由紀子(中学生)の学資には相当の費用を要し、また父公知は昭和三六年四月急性穿孔性腹膜炎、心筋障害、動脈硬化症等を併発し、その治療のため翌年二月二七日までの間に約十三万円を支出しているけれども、被控訴人方はかなり余裕のある生活状態にあること、控訴人は実家に居住して(控訴人の肩書住所とその母である原審証人竹内キセの住所が同一であることによりこのように認める。)被控訴人との間に出生した次女英理子(昭和二七年五月五日生。小学生。)を扶養し、前記月額七千七百円の給与収入と実家から援助される米とをもつて英理子との生活費にあてていることを認めることができ、原審における被告公知本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信できず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。しかし、控訴人の主張するように、被控訴人の妹有子が遺族扶助料を受けていること、被控訴人方は果物購入の必要がないこと、燃料費の支出はほとんどないこと、年間相当額を貯蓄していること、山林の立木を売却したこと、被控訴人方の家族の一人当りの生活程度は年額約十四万一千円ないし十五万二千円であることはこれを認めるに足る証拠はない。控訴人は、英理子との二人の生活では食う以外に余裕がないと主張するが、右認定事実によると、控訴人は月額七千七百円の給与収入を得ているのであるから、十分ではないとしても、一応の自活能力を有するものと認むべく、もつとも、現在英理子の扶養が控訴人にとつて相当の経済的負担になつていることはこれを推認することができるが、英理子に対しては被控訴人も父としての扶養義務を負つているのであるから、控訴人の右経済的負担は、財産分与とは別個に、子の扶養の問題として合理的解決を図るべきであつて、英理子に対する扶養料を控訴人への財産分与額の一内容となすべきものではないと解する。以上認定事実に本件婚姻破綻の経過および原因その他一切の事情をしんしやくすると、被控訴人をして控訴人に対し財産分与をさせるべきであり、その額は三十万円とし、その支払方法は、(一)内金十万円は即時支払うこと、(二)残金二十万円は原判決確定の日の属する月の翌月から支払ずみにいたるまで毎月末日限り金二千円あてを控訴人方へ持参して支払うこと、(三)右支払を二回以上遅滞したときは控訴人において残額を一時に請求することができることと定めるのが相当である。

よつて、右と同旨の原判決は相当であつて本件控訴は理由がないから、民訴法第三八四条、第九五条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 林善助 佐竹新也 篠原幾馬)

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